
平松鷹史
平松鷹史氏の「ふるさと随筆シリーズ」を読む前と後では、大分の町の姿が変わって見える。100年前、トキハデパートの場所は、サーカスやお化け屋敷が催される草ぼうぼうの広場であった。中央通りは今よりも狭く商店が張り出すように並び、路面電車が走り、氏の生家もそこにあった。町にお祭りがあるときは花電車が登場し、別府鶴見園の踊り子たちはオープンカーに乗りビラをまいた。
これらは全て町から消えてしまった。シリーズは1927(昭和2)年生まれの氏が幼少期を過ごした昭和初めの大分が主に描かれている。第1作の「一宿一飯」が出版されたのが75(同50)年でその時点で40~50年前のことだが、現在これを読む私にとってはおよそ100年前の大分だ。あとがきに「このちっぽけな雑文集も時の経過の中で反故になり、塵となって雲散霧消するでしょう。それでも私はやっぱり書いて置きたいと思います」とあるが、時がたつほど価値の増す大分本だ。
大分合同新聞の記者時代の話も一応出てくる。大半は大好きな酒や、路地裏歩き絡みだが。大分中で飲んでいたに違いない。海外でも飲んでいたエピソードがある。秀逸なのは路地裏での庶民の生活描写。当時の生活のにおいや音まで感じられる。
私のインスタグラムにおける日々の投稿は、平松氏の身辺雑記と近いかもしれない。現在、本仏お(大分本)、大仏お(町の姿)、パン仏お(観光パンフ)、合仏お(新聞記事)と名前を使い分け対象物を変えながら、一人ふるさと再発見をしている。50年先、100年先に消えているかもしれない風景や、風化してしまう記憶を記録できているのか。氏と違って酒はそこそこだが、これからも山では草木をかき分け、町では路地裏を歩く。そのような場所で皆さまと出くわすこともあるかもしれないが、普段はYouTubeに出た黒マスクとサングラス姿ではないのでご安心を。