
愛と闘いの映画人生
著者の吉崎道代さんは、ヨーロッパに住んで四十数年。高校卒業後、単身イタリアに渡り、激動のヨーロッパで未婚の母として子育てをしながら、アカデミー賞受賞作(共同製作をした作品で、なんと15部門がオスカーノミネート、4部門が受賞という実績!)を含む数々の名作・話題作を、ディストリビューター、プロデューサーとして手がけてきたパイオニア。80歳になる現在でも現役で活躍している。
そのプロフィルにまず圧倒され、次に、彼女が大分県出身の女性であることに、驚きを禁じ得なかった。俳優や監督とは違い、これまで業界人以外に広く知られてはいなかったのではと思われる(そうでなかったら失礼と謝るしかない)が、キネマ旬報社のオファーにより、波瀾万丈を地でいく映画人生を語る自伝が今夏、上梓された。
国東半島にある「どんずまりの村で育った」という少女(中学1年まで大分で過ごした)は、小さい頃から映像への興味と憧れを抱く。10代ではマーロン・ブランドを神様とあがめ、中学校の行き帰りにお寺で「外国に行かせてください、そしてブランドに会うために映画界で働きたいのです」と拝む日々を送る。その夢をかなえる道程が、赤裸々につづられている。
これまで携わってきた映画製作の現場や裏側、監督、スタッフらの姿を紹介する中で語られるのは、曲折を経てチャンスをつかみ地位を確立していく仕事ぶりや、やり遂げるための覚悟、自分の意思を相手に伝える交渉術、日本映画界への提言など。
オスカー受賞式の生々しいエピソード、フェデリコ・フェリーニやフランコ・ゼフィレッリら親交の深かった映画人の素顔に触れることもできる。あまりにも大きな映画愛と不屈のバイタリティーに気おされ、たじたじとなることは不可避と思われるが、エネルギーをもらえることも請け合い。映画と人生の教科書として、自信を持ってお薦めできる。