思春期の本棚

「バブルって、なんだったの?」

森功著「バブルの王様 森下安道 日本を操った地下金融」小学館

バブルって、なんだったの?

 バブル期の1980年代に実施された国の世論調査では「日常生活に悩みや不安を感じていない」と答えた国民が半数以上に上ったという。国民の大多数はディスコで扇子を振り回して踊ったり、高い絵画やフランスのお城を買ったりはしなかったが、母国の未曾有の繁栄をなんとなく享受しながら、憂いなく未来に希望を抱いて生活していたということだろうか。ちなみに、最近の同じ調査では逆に「悩みや不安を感じている」と答えた人が約78%を占める。

 バブル崩壊後の日本の経済成長率は先進国の中では最低。収入は増えず、ワーキングプア、子どもの貧困など格差も拡大し続けている。「バブル」は諸悪の根源として、あるいは当時の過激な風俗を笑いのタネとして語られることも多い。バブル期の再考を試みた書籍は多く、ノンフィクションだけでなく、小説の題材にもなっている。私は1990年に上京したので厳密にはバブル経済は終焉を迎えていたが、まだまだ残り香が濃い時代だった。なので、新刊が出るとやはりチェックしてしまう。

 金融政策の失敗を指摘、反省する書もあれば、貧しい環境からのし上がり、信じられないような、ぜいたくと転落を経験した「バブル紳士」たちの評伝など、人物にスポットを当てた書もある。本書は「マムシ」とあだ名された(バブル紳士にはなぜか皆あだ名がついている。「サラ金の帝王」とか「兜町の風雲児」とか)森下安道に取材している。イトマン事件で有名になった許永中や「いつかJR新宿駅を地上げする」と、恐れられた最上恒産の早坂太吉会長とのやりとりは、人間くささにあふれて面白い。

 会社の同僚が「バブル期の東京を知ってる人はなんとなく雰囲気が明るい。僕らの世代とは全然違うんです」と言っていた。確かに、そういう雰囲気の人は多いかもしれない、と膝を打つ思いだった。30年たっても「なんとなく明るい」というエフェクトをかけ続けるバブルという時代。多くの創作物が生まれるのは、その桁違いの熱量のせいだろうかー。

ハチマルコ

ハチマルコ

「連載タイトル / 思春期の本棚」 東京都・1971年生まれ。子育てに迷走しながら、東京で頑張る大分県人を取材しています。ワインを愛するあまり、体重は20代比15キロ増。「今年こそダイエット」宣言中(何回目かは忘れました)。

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