旅行の前後に読みたい本の話

「グラフィックノベル2」

雑誌「アイデア」2021年4月号(写真中心)の海外マンガ特集がとても詳しく、いろいろと物色する際の参考にしています

グラフィックノベル2

 今回は、5月の記事に続いてグラフィックノベルについてご紹介します。

 ウィキペディアによるとグラフィックノベルとは「長く複雑なストーリーを備えた、しばしば大人の読者が対象とされる、厚い形式のアメリカン・コミックを指す」と定義されています。今回はその中でも社会的なイシューを正面から扱った作品を取り上げます(アメコミ作品にも社会的イシューは複層的に盛り込まれていますが、あくまで“正面から”扱った作品とします)。

 社会的イシューといっても内容はさまざまですが、それは主に作者のアイデンティティーに依拠するケースが多いように見えます。

 作品の背景だけ取り上げても、例えば第2次世界大戦下のホロコースト、公民権運動直前のアメリカ南部、日本統治時代から戦後にかけての台湾、戦時下とその後の混乱期のベトナム、革命前後のイラン、カダフィ政権下のリビア、移民2世にとっての現代アメリカ、旧植民地からの移民が暮らす欧州、イスラム国(IS)の侵攻で混乱する内戦下のシリアなどなど、その場所や時代のダイナミズムと、そこで生きた作者や家族のストーリーが描かれています(数が多いので個別に書けないのが残念ですが、作品名は写真の表紙をご参照ください)。

 これらの作品は、近現代の重要な出来事を学ぶ上で有用なことはもちろんなのですが、単に知識を超えた魅力があると思います。それは、作品に作者の個人的な体験がビジュアルと言葉を用いて表現されており、そのページの連なりから作られるグラフィカルなストーリーに私たちは入り込み、体験を疑似共有できることではないかと感じます。

 日本に入ってくる作品はまだまだ多くはないですが、動画コンテンツやポッドキャストと同様、新しく刺激的なエンターテインメントであることは間違いありません。今後もさまざまな作品に出合い、楽しませてもらいたいと考えています。

高橋 潤一

高橋 潤一

「連載タイトル / 旅行の前後に読みたい本の話」 大分市・1978年生まれ。子供の頃は毎年夏休みの推薦図書を読んでいて、物語が好きだった。今は文学、社会・政治、ノンフィクション、歴史・地理、旅行ガイド・マップ、コミックあたりが好き。

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