
ロンドン、別府、パリ
ロンドン、別府、ヘルシンキ、ボンベイ(現ムンバイ)、パリ、モスクワ、ストックホルム。これらの都市に共通することは。世界の有名都市? 間違いではないだろう。別府だって「東洋のナポリ」と呼ばれた時代があった。
実はこれ、1917年にガールスカウト米国連盟が創刊した月刊誌「American Girl」の、69年2月号の表紙に並んだ都市の名前である。違和感しかないが、取りあえず本誌のどこに別府が出てくるか探してみよう。
ところでガールスカウトといえば、野外調理やサバイバル術、最新アウトドアガジェットなどを想像してしまうが、それらは全く出てこない。そもそも表紙のモデルの格好は街行きだ。実際の中身は、ファッション、美容、クッキング、小説など一般ティーンの関心の高そうな企画ばかりだ。
別府はここではなく、特集「Youth Tells How it Ought to Be(若者、あるべき姿を語る)」で日本の典型的な地方都市として出てくる。本誌記者が最初に挙げた都市を回り、そこに暮らす女性ティーンに自国の社会制度や慣習に感じる窮屈さとその環境にあって自分が好きなこと、したいことを語らせている。「自立した女性の育成」を目的とするガールスカウトの精神にのっとった好企画だ。
別府では、16歳のM.I.さんがインタビューに次のように答えている。「将来親から見合いを勧められると思うと憂鬱だ。チャンスがあれば都会に出て行きたい」。記者は、日本では親の意向に逆らって、火口に身投げするカップルもいるのだよとドキッとするようなエピソードを挟み込んでくる。
結局特集を読んでも、なぜ別府が選ばれたのかは分からない。地方都市は他にもあるのだ。もしかしたら、別府が先の世界的都市の間に挟まれて記載されていても違和感がなかった時代が50年前の米国にあったのか。M.I.さんが存命であれば現在70歳前後だろう。彼女に会って真相を確かめたい。