スマホ世代の既読本

「今日を好きになる」

イム・ジーナ著、呉永雅訳「モノから学びます 今日がもっと好きになる魔法」KADOKAWA

今日を好きになる

 先月23年間生活した家を出て、初の1人暮らしを始めた。特に大きな理由はない。ある日、このままずっと実家にいたら、家事も何もできない大人になるかもしれないと、突然焦りを感じた。すぐに内見の予約を入れ、運よく最高の立地の部屋が空いていたので即決した。

 「転勤のため仕方なく…」と必要に迫られたのではなく、完全に自分都合の思いつきの結果だ。なのに、誰もいない家に帰るのは寂しくて寂しくて、帰宅するとすぐに家族や友人と電話していた。

 それまでは毎日実家から通っていたので、決して帰れない距離ではない。たかだか電車で15分。それが1人暮らしを始めた途端、すごく遠い場所のように感じるのだから不思議だ。

 孤独感を紛らわすため、「インスタグラムに出てくるかわいい部屋をつくる!」と目標を立てた。1人暮らしに対する自分のモチベーションを高める効果も期待して。

 まずはインスタで理想の部屋に近いアカウントを見つけ、投稿を保存する。次に大手家具メーカーや雑貨店の通販サイトを確認し、似た商品でなるだけ安価な物を探す。送料を節約するため、市内に店舗がある場合は休日に買いに行く。お気に入りが見つかるまで、何時間もスマホとにらめっこした。そんなせわしない日常のおかげで、寂しさは次第に減っていった。

 しかし急ぎすぎたせいで、もうじき部屋が完成してしまう。次は何を目指して毎日を過ごそうかと思っていた時、「モノから学びます」を見つけた。ソウルで暮らす著者が、身の回りにある「モノ」から自分を見つめる一冊。古くなったタマネギや、ご飯をよそう前に水でぬらすしゃもじ、長い間壁に貼っていた色が変わった紙。何気ないモノと向き合った時、毎日がいとしくなるという。

 私に必要なのは目標ではなく、すでにあるモノを大切にして暮らしていくことのようだ。手の届く範囲に幸せがある生活を楽しもう。

すみ

すみ

「連載タイトル / スマホ世代の既読本」 大分市・1998年生まれ。小説ならミステリー、漫画なら少年漫画が好き。部屋の本棚は、本が増えるたびに祖父が増築してくれた手作りのもの。映画もアニメも生活の一部で、三つの動画配信サービスに登録する。

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