スマホ世代の既読本

「ごほうびの課題」

太宰治著「太宰治全集9」筑摩書房

ごほうびの課題

 大学1年生の時、「国文学作品研究」という講義を受けていた。

 私が通っていた学部は、授業の9割が必修科目。「自分の意志で好きな授業を選び、興味の幅を広げていける!」と入学前に想像していた大学生活とは全く違い、どちらかといえば高校に近いカリキュラムだった。自由に選べる教養科目は、4年間で三つのみ。どれも印象的だったが、私の人生に最も影響を与えることになったのが「国文学作品研究」だった。

 教科書として指定されたのは「太宰治全集9」。90分の授業の中で、太宰治の作品を一つ取り上げ、解説をするという内容だった。一文一文に着目し、太宰の実体験かどうか、この表現は誰から影響を受けたのか、ここに登場する場所は実在しているのかなどを教授がひたすら説明する。講義までに本を読んでくるのが毎週の課題で、私にとってはむしろごほうびだった。

 中学の教科書に載っていた「走れメロス」しか読んだことがなかった私は、太宰治に対して、マイナスなイメージを持っていた。しかし講義を重ね、知れば知るほど、印象は覆され次第に魅了されていった。臆病な性格に勝手に親近感を覚え、「こんな有名な文豪でも自分に自信がないのか!」となぜか安心した。好きなところを挙げればきりがない。

 本書に収録されている短編「眉山」は、太宰の繊細さが顕著に表れており、初めて読んだ時は非常にやるせない気持ちになった。どうしてこんなに細やかな人間の情緒を表現できるのか不思議でたまらなかった。

 もっと知りたい一心でゆかりの地を巡った。湯布院の「ゆふいん文学の森」はもちろん、東京都三鷹市の「太宰治文学サロン」、青森県の生家「斜陽館」など。そこでしか見ることのできない直筆の原稿や、当時の写真を目に焼き付けた。

 授業で取り上げたのはたったの15作。何度でも受講するので、かなうことなら全ての作品の話を聞きたい。

すみ

すみ

「連載タイトル / スマホ世代の既読本」 大分市・1998年生まれ。小説ならミステリー、漫画なら少年漫画が好き。部屋の本棚は、本が増えるたびに祖父が増築してくれた手作りのもの。映画もアニメも生活の一部で、三つの動画配信サービスに登録する。

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