本屋一夜 書店主の憂鬱

「小さな書店を経営する」

@hana.x.nuko_booksさんのインスタグラムより。カモシカ書店の店内

小さな書店を経営する

 昨年、大分市金池町にバレイショテンさんが船出した。別府に書肆ゲンシシャさん、鉄輪に夢十夜さんがある。大分市中央町の美容室の中に絵本屋かのこさんがある。「実店舗で本を販売している新規の個人店」という点に絞ると、県内はこの4店と僕のお店で全てではないだろうか。

 市場規模、書店数ともにこの30年で半減。そんな時代に本屋をやるというのはどういうことなのか。僕は個人事業主で、会社経営者ではない。その違いは大きくて、単純にいうと「うまくいった、じゃあもう1店舗増やすか」と複製技術を磨くのが会社経営。「世界で最後の一店にしたい」とか「これが体力的に限界」とかいってお店を簡単に複製しない、できないのが個人事業主だ。あくまで本屋の話ですよ。

 書店数がピークだった30年前からずっと、大型店を多店舗展開する「経営者」たちの本屋の時代だった。複製技術でとにかく売れる本をたくさん売ろうとして同じような本屋ばかりになり、街の書店はつぶれ、人々は本屋のことを忘れていった。つまり今、衰退しているのは「経営者」たちの本屋であり、叫ばれる業界危機は「経営者」たちが満足する規模ではなくなったということだ。そこを逆手にとって、埋もれた価値を発掘し、小さな声に耳を澄ませたい、そういう個人たちが本屋を始めた。

 その一人、僕の個人的な内省だが、時代背景と動機が大差ないから、どうしてもどこかで見たことがあるような本屋になるという矛盾がある。それから独立個人店といっても、既成のスタイルの変数をいじって組み合わせただけで、新しいものは何も生んでいない、というむなしさもある。

 「消えていくものは実は最も効率的な形で保存される」と何かで読んだがまさに書店はその過渡期にあるのだろう。未来の本屋、それは全く想像できないが、確実なのは、本屋がなくなっても読書がなくなるわけではないということ。妙な話だが、心からそう信じられるからこそ今日も本屋をやっているのだと思う。

岩尾 晋作

岩尾 晋作

「連載タイトル / 本屋一夜 書店主の憂鬱」 大分市・1982年生まれ。カモシカ書店店主。読書だけで大学まで行きました。

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